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AMAKOMA-YA
熊本の妖怪
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 二の坂の道筋ん山に「おまん」ちゅうこっけ狸が棲んどったげな。人間ば騙くらかすこた朝めし前、また歌が上手で人ばからこうては一人で?いや一匹で面白がっとった。噂ば聞いた人びとは、朝夕薄暗いうちゃみんな怖がって、こん峠ば越ゆるもんなおらんじゃった。
 ある日のこと、村の庄屋どんが、まだ明けきらん薄暗か中ば愛馬に打ちまだがり、気に入りのお供えば一人従えて狩に行く途中、今日の獲物ばあれこれ想像しながる二の坂ば登っとらしたげなたい。
 明けん明星が姿ば消すころ、坂ん途中の「下駄取り坂」ちゅうて、雨上がりにゃ下駄履いて通ればおっ取られるごつ粘り気ん強か赤粘土の坂道ばようよう登りきったとき、白々明けかけた朝露の中ば、庄屋どん方の下女がゼーゼー、ゼーゼー息ば切らしながる後ろから追いかけてきて、「旦那さん、旦那さん、奥さんが子供ん生まるっち騒動しとらすで、狩りは止めて早う帰って下はりまっせ」「なんてやッ、奥がお産を?……」突然のこつで庄屋どんな一瞬めんくらわしたが……、はて、今ごろ奥が子供ば産むはずはなか……こらおかしかぞ?ハハァ、こやつは「おまん狸」の仕業じゃな」瞬時に気付いたばってん、さすがは庄屋どんたい、顔には出さずいきなり馬ん上から腰の大刀を抜く手も見せずに下女を目がけて切り払った。哀れにも「おまん」狸の首はころりと落ちて泣き別れ。
 それからは、二の坂にゃ人間ば騙す狸は出らんごつなって、村人は安心して夜道でんこん坂ば越ゆるごてなったちゅう話たい。


水俣市史「民族・人物編」より
http://www.city.minamata.lg.jp/976.html